「新型コロナウイルス患者用の病床逼迫を受け、田村憲久厚生労働相と東京都の小池百合子知事は23日、都内の医療機関に対し、コロナ患者を最大限受け入れることを改正感染症法16条の2に基づき要請することを表明し、同日要請した。正当な理由なく要請に応じない場合は勧告し、従わなかった際は公表する。」
先日このようなニュースが世間を騒がせましたね。
病院にコロナ患者の受け入れを要請(勧告)し、従わないようであれば病院の名前を公表しますというものですが、これがなかなかの物議を醸しています。
(患者側からしたら一見、朗報のようにも見えるかもしれませんが…)
・コロナを診ていないからといって仕事をしていないということではない
・病気はコロナだけではない
・そんな即席でコロナの重症者を診れるスキルも体制もない
という具合に、医療従事者、病院経営者の方々からお声があがっているわけですが、なんとなく医療従事者の方々と一般の方々の話がかみ合っていないケースも見受けられたので、これを機に、普段一般の皆様が触れることが少ないであろう病院の機能区分というお話について、ここで少しご紹介してみたいと思います。
(もちろんご存知の方も多いとは思いますが・・・)
日本にある病院には、すべての病院に、とーってもざっくりですが3つの役割分担があります。
(厳密にはもっとあります。ざっくりすぎてすみません。)
急性期、回復期、慢性期という役割です。
急性期はこちらもざっくりいうと、病気や怪我を「治す」ところ。
回復期は急性期を過ぎた患者が「リハビリテーションを行う」ところ。
慢性期は長期療養が必要な患者が「長期療養する」ところです。
そして、急性期の中でも、重症度・重篤度に応じて、3つのレベル分けがあります。
▼一次救急⇒軽症患者に救急医療を提供するところ
要は、入院の必要がなく帰宅可能な軽症患者に対して行う救急医療のことを指します。救急車というよりは、自力で来院するようなところですね。
(夜間休日診療所などがそれにあたります)
▼二次救急⇒24時間体制で救急患者を受け入れをするところ
一次救急と違って、自力来院が難しく、救急車で運ばれてくるような状態の患者を診るところだとイメージするといいかもしれません。
必要があれば検査、オペ、入院治療を行ったりもします。
▼三次救急⇒高度な救急医療を提供
いわゆる、テレビのドラマでやっているような救命救急センターなどは三次救急にあたるものがほとんどです。一次救急や二次救急では対応できない重症・重篤患者に対しておこなう医療のことを指します。
今はこの三次(と二次)の急性期のコロナ病床がいっぱいで、それに伴ってコロナ病床を作るために他の急性期病床がどんどん削減されているので(コロナ病床1床作るのに、1病棟潰さなければならないところもあるそうです)、医療崩壊が起きていますよという話になっているわけです。
病気はコロナだけではありませんからね…
日本ではこのように病院ごとの役割が決まっているので、例えばですが、三次救急の病院がコロナ病床を拡張した結果、病床を削らざるを得ず、あぶれてしまった患者を地域の他の二次救急病院が引き受けるとか、それでも受け止めきれなければ今いる方の退院調整をしたり、地域で診られないかを模索したりなどの動きがあったりするわけです。
なので、コロナ患者(のしかも重症者)を受け入れていない ⇒ 余力があってさぼっているということは一概にはいえませんよということですね。
コロナ患者を診ている病院がより多くのコロナ患者を診られるように、より緊急性の高い患者を診られるように、後方支援をしている病院もあるということです。
(わかりませんが、慣れないことをして後方支援もままならなくなってしまったら、逆に医療崩壊が加速するなんてこともありえるかもしれません。)
また、現状、それにも積極的ではない病院もあるかもしれませんが、やる気を出せばすぐにできるかといえばやはりそういうわけでもありません。
そういうことにも知識、技術、経験、設備、組織体系・文化、色々な要素が絡んできたりするものだと思うからです。
(それは私たちでもそうですよね。やる気があるからといって、いきなり新しい仕事が魔法のようにできることはありません。)
だから、単にどこがさぼっているからダメだということではないと思うんですよね…。
そんなわけで・・・
「要請に応じないと、名前公表するぞ」と上から目線で脅せば魔法のようにうまくいくわけではない!というのが、医療従事者の方々の胸の内ということだと思います。
本件は、国としてはなんとか1床でも確保して現場が命の選択をしなくても済むようにということかと思うのですが、「伝え方」に難ありのような気がしてなりません。
実際のところ、「コロナ病床を設けて補助金を受け取っているにも関わらず、”意図的に”軽症者しかとっていない病院があることを問題視している」ということだったようなのですが(その病院にはその病院で重症者を診られる人員が整っていなかったりするのかもしれませんが、もうほとんど診る必要がないのに、ベッドに空きがあると色々言われるからということで患者を滞留させているなどは確かにあれば問題です)、そこをメインに伝えた方がよかったのではないかと思います。報道の問題でしょうか…
そうでないと、医療機関、実はまだいけるでしょ?(まださぼってるところあるでしょ?)というメッセージを世の中に放っているも同然だからです。
元々ストレスのかかる職種でありながら、1年以上も医療従事者というだけで差別されたり(とんでもないことですが…)、好きなことも我慢し続けている方がほとんどなわけですから、しっかりと現場の声を聞いて、国や地域が一つになれるような状態を目指していただきたいと切に思います。
そのためにもまずは、多くの方にそもそも日本の病院・医療体制がどのように成り立っているのか、また、どのような人たちの努力によって成り立っているかについて改めて知っていただく機会になれば幸いです。
(ざっくりすぎて厳密には違うというところもあると思いますが、何卒ご容赦くださいませ。)
人事コンサルタント
金森秀晃