サービス提供における人材育成

金森 お話頂きました通り、理念の共有というところは、組織運営において非常に重要であると思いますし、実際貴院の中では理念の共有が進んでいることを感じました。貴院の研修担当の方とお話させていただいても、理事長の考えをいかにすべてのスタッフまで届けるか・・・という指命を持ってると感じましたね。


田村理事長 そうですね、企業理念は、職員が職員に対して誇りと向上心をもって、小さなことでも業務改善しようという動機形成のために大事だと思います。
あと、めぐみ会では理念を基に職員研修にも力を入れていますが、ZACさんにも講師をお願いしている研修はめぐみ会の特別メニューというものではないと思っています。先ほどのいいましたが、社会人として基本的に身に付けていなければならない部分、心のありよう、マナーという部分をきちんと学んでほしいと思っています。


金森 研修に関しては、様々な企業で年間250回くらいやらせていただいてますけど、他と明らかに違うのは、経営者の方のマインドですね。本日お話伺っていても理事長のお考えというのが本当に理に適っているので、研修においても僕の役割、ポジショニングも明確にしやすいんです。ただそれが、確かにスタッフの方に届きにくいというのが難しいところ、大変なところだなと思いましたね。


田村理事長 日々の忙しい仕事に追われると企業理念よりもとにかく目の前にたまる仕事をなんとか処理しなくては、となってしまいがちです。そして、途中で、イレギュラーな問題ができて手間がかかると「参ったな、今日はついていないな」という様な気持ちになる事もあります。それが患者さんにも伝わると嫌な印象を持たれたり、クレームに繋がったりとか、そういったところで問題は発生するんだろうなと思いますね。うちに入ってくる職員は医療機関の仕事は、"病んだ人、助けを求める人たちに、手を差し伸べたいと思う自分の優しい心を素直に体現する仕事といういいイメージを持ってくれている人がたくさんいるわけです。ただその気持ちを表現していくにも技術がいる部分がありますね。だからそういったところを是非専門家の手を借りていきたいんです。思っているだけでは成果にならない。ただ優しくしてあげたいという気持ちだけでははかどらない。
想いと接客のスキルとが結び付くといい対応ができる職員となっていくだろうなと思いますね。でもそれは単に接客の技術というだけではなくて、組織の中で生きていく中でどういう心持でやると成果があがり、やがては人に認められるということに結び付いていくのか、ということに繋がっていくと思いますね。


金森 そこはたくさんの事例をみているので、ぜひそういうことを、研修を通して具現化していきたいですね。マインドを作るというのもスポーツの一つの技術のように、行動させることによって、作っていくことができますから。初動の行動にやっぱり一つの根拠を設けると行動がとりやすくなったりとかするわけですけども、必要な行動というものが。それをいかにもっていくか…理解はあとからいくらでもついてきますからね。本当に理事長のおっしゃる通り、それをできるだけ具現化していきたいです。


田村理事長 色々やったことがうまくいかなくなると、考えが後ろ向きになってしまうことってありますよね。後ろ向きの際たるものが、「もう自分の仕事増やしたくない」とか、ちょっと革新的なことが出てくると、「僕らの仕事増えちゃうじゃないか」みたいなことで足を引っ張る風土、これは、油断するとすぐできると思うんです。それは私が、強く怒るだけではなかなか解決しない。

金森 それは理事長だからできるだろうってまた思われちゃいますもんね。混乱・不安が必要な手段というか、過程だっていう、後で楽になるっていう発想がないと先延ばし、後回しになってしまうし、本当にどんどん大変になってしまいますもんね、組織の問題っていうのは。抱え込んだほうが仕組み化が進みやすいっていう認識が必要かもしれないですよね。


田村理事長 めぐみ会流の、めぐみ会仕様のスペシャル社員を作ろうと思っても無理だと思います。できる人、いい仕事する人は、どこへもっていってもいい仕事すると思うんです。そういう人を研修の中で育てたいですね。例えば新卒の社員が、自分の社会人人生はめぐみ会に就職した時点で失敗だったといわせたくない。うちに入ってくれた職員が、全員定年までいてくれるとは限りません。女性も多いですし、結婚出産もあると思います。子育てをして、再就職するときに、それがめぐみ会ではなかったとしても構わないんですよ。ただ、めぐみ会で仕事をしていたというキャリアを自分の付加価値にできるようなそういう職場にしたいなと思っているんですね。めぐみ会で主任をやってたのなら、うちの事務長でぜひ来てくださいという声がかかるようなそういう人の育て方ができたらいいと思っています。


金森 すばらしいですね。経営者としてはそういった組織を目指していきたいですね。


田村理事長 そうすれば、その人にとって誇りになるような人生がおくれるかもしれないじゃないですか。逆に優秀な人材をたくさん得たい、抱えたいと思ったときに、給料高くするだけでは絶対ダメなんです。限界があります。それよりも、「ここで仕事をしていると忙しいけど日々すごく自分が成長できる」そういった実感を感じてもらえると、伸びる人材は辞めずに残ってくれるんですね。


金森 本当にそうですね。


田村理事長 そういう職場にしないといけないと思うんです。医師の中には、スタッフが他の部署に転勤することを、嫌う方もいるかもしれませんが、それはスタッフをどう捉えるかだと思います。スタッフを自分の仕事のしやすさを支えてくれる優れた道具だと考えるのであれば、いい職員を手元に集めておきたいと思いますが、職員は『道具』では無くて『人材』なんだと。大きく成長してもらって将来的にめぐみ会を支えてもらえばいいので、ある程度育ったら成長のために次のステップに送りだしてほしい(他の部署に)という話をよくしますね。
それとその異動がその職員にとってちょうどいいキャリアアップであることも必要なんですね。


金森 仕組み化ということについてもですね。人を育てるという。


田村理事長 そうそうそう。でも、経営者はみんなそれくらいのこと考えてませんか?


金森 いやー、でもあまり聞かないですね、…この医療業界では。


田村理事長 医療系ではですよね?他の業界では、創業者経営者は従業員が100人、1000人となった会社というのは、やっぱりみんなそういうこと考えて、それくらいの規模になると本当に人材が薄いとそれによって足かせになりますから、なんとかいいい人材を育てて、自分のところで活躍してもらいたいと思うと思います。


金森 正直もっとできる人をいかに使うかという発想を持たれているのかなと誤解していたんですが、ここに至るプロセスを「至弱に始まり強いところに至る」ところが大切とおっしゃっているというのは、すばらしいですね。本当にどんどん成長していく仕組みであり、今、またこれからの社会において大事なことですよね。


経営者としての責任

金森 人材育成に関するお考えを伺いましたが、田村理事長が経営者として大切にされていることはありますか?


田村理事長 そうですね。経営者の責任は何かというと、顧客にいいサービスを提供すること、満足してもらうことだと思います。これはどの業種においても経営者の大きな命題ですよね。一方で、職員の雇用と生活と、将来をきちっと保証していくのも経営者の大事な責任だと思います。


金森 なるほど。経営者として顧客に対してとスタッフに対して責任を負う、ということ、非常に勉強になります。


田村理事長 私は、医療関係より、サービス業として医療よりもずっと先を行っているところのサービスや教育などに関心があります。例えば、エアラインの教育とか。


金森 ZACでは医療介護業界における研修が全体の70%程度ですが、一般企業も多々やっておりますので、ぜひ色々とお伝えしたいなと思います。


田村理事長 今、顧客は医療機関に限らず色々幅広く?


金森 そうですね、まぁ基本は同じですから。今一番多いのはレジリエンスといって社員のメンタルヘルス、問題や弊害が生じたときにそれにどうやって柔軟に対応して目の前の処理をしてもらうかというところが一番人気になりつつありますね、今までアサーティブでしたけど。それはもう普遍的なテーマですからね。


田村理事長 私は産業医もやっていますが、それは産業医の視点からも非常に大きな部分ですね。


金森 最近だと、産業医の質も企業さんから問われますもんね。


田村理事長 そうですね。今は産業医の役割の必要性を会社も求められていますし、メンタルヘルスの部分は非常に重要ですね。


金森 いやぁ…色々とご苦労も多いのではないかと思うんですが、身体壊したりしませんか?笑

田村理事長 私は、結構休まないで働いているので、よく言われます。ここまで仕事中毒のように働く必要ないのかもしれませんが、仮に私が診療を辞めて、理事長職に専念とか言って、休んで海外旅行へ行ったり、法人のお金でロースルロイスとか乗り回していたら、みんなついてきませんよね。そういう行動は、頑張ろうというスタッフのモチベーションを大いに下げると思うんですね。


金森 そういう方多いですけどね。笑


田村理事長 そういう暮らしをしたいから開業するんだという人は結構いるわけです。でも、私は別にそういう贅沢をしたくて医者になったというよりも、話の前半、お話したように、こういう医療サービスの世界に、一つのモデルを提示して、日本の医療はすごいねという世の中に変えていく、一石を投じることができればいいなと思っているからやっているわけです。人生の目標の大半がめぐみ会を成功させるということのために注がれているので。


金森 是非、お手伝いさせてください。本当にすばらしい…。身が改まりますね。こういうことをやっている意義が今日また得られました。


田村理事長 そうですか。色々思っても、色々な人に助けてもらわないと、支えてもらわないと、ダメですね。そういった意味で、期待していますし、また宜しくお願いします。


金森 頑張ります。お忙しいところ、本当にありがとうございます!